「2024年、年始の挨拶に替えて」
2024年の新年を迎えて、ゆっくり休日を過ごすいとまもなく、元旦には能登地方に大地震、翌日には大きな航空機事故が起きた。一昨年からのロシアのウクライナ侵攻、イスラエルによるガザ地区へのジェノサイドなど、目の前で生命が次々に失われる事態に長く晒されているだけで、いつの間にか心理的疲労が積み重なっていることを感じる。テレビのこちら側ですらそうなのだから、現場はいかばかりかと胸が痛い。
私たちの生きてきた時代。日本で戦争はなかったが、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、そして今回の能登の震災と、甚大な自然災害には何度も出会ってきている。過去ふたつの震災と、今回の震災が明らかに違うのは、国の動きと報道ではないだろうか。偶然にも過去の震災は自民党政権ではなく、今回初めて自民党政権下の震災である。
東日本大震災の時、福島第一原発の爆発映像は多くの国民が同時にテレビで見ていた。ひっきりなしに枝野官房長官の記者会見が行われて、その不眠不休の様子に「枝野寝ろ」のハッシュタグがSNSには上がった。少なくとも今何が起きているのかを誠実に刻々と伝え、それに対して国がどのように動いているのかが可視化されていた。私たちも一緒に固唾をのんで被災地に気持ちを寄せる、そんな時間を過ごしたことを記憶している。
ところが今回の地震では全く様相が違う。まだ生死が不明な人が多くがれきのなかに居るにもかかわらず、原稿を棒読みするだけの総理記者会見。それもほんの時々、申し訳程度にしか行われない。3日経っても水や食料などが被災地には届かず、政府の誰一人現地には出向かず、被災者支援の予備費の閣議決定は9日。国民の命を守るという熱意を感じさせる政治家が、今政府には誰一人いないと痛感させられるものだった。
そうした政府の姿勢に重なるように、報道のありようも以前とは全く違う。翌日には早々に地震の報道番組が打ち切られて、正月特番のバラエテイ番組に変わった。生死の境となると言われる72時間以内ですら、どのチャンネルを回しても報道映像はなく、ネットのBBCの映像が一番ちゃんとしている。一体この国はどうなってしまったのだろうか。何か隠蔽されているのではないか、本当はもっと大変なことが起きているのではないか。政権への信頼が持てないことは不幸であり、不審と不安を多くの人が持たざるを得ない。
延々怒りをぶちまけそうなのでこのくらいにして、この機会に災害時のストレス反応の症状とその経過などを、再度確認しておきたい。
被災者は大きな衝撃を受けて、茫然自失となったり、反対に強い使命感、興奮、精神的な高揚感を抱く。「災害後の様々な心身の不調は、災害という非日常的、異常事態に対する正常な反応である」ことを報せ、症状が長引いた場合には専門家に相談するよう促す必要がある。
急性ストレス障害の症状として、動悸、発汗、イライラ、怒りっぽくなる、集中力や決断力の低下、フラッシュバック、神経過敏、不眠、現実感を失い災害などを他人事のように感じるため、周囲からは「意外と元気」などと誤解されることもある。体に現れる症状としては、身体のふしぶしの痛み、頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、不眠、血圧の変化、食欲不振、吐き気、胃痛などの胃腸症状、便秘や下痢、憂うつ感や疲れが取れないなどがある。認知症のある高齢者は、せん妄状態になることもあり、環境を整えるなどの対応策を取る必要がある。
PTSDには大きく分けて、「再体験」「回避」「否定的感情と認知」「過覚醒」があり、一般に症状が1カ月以上続く場合にはPTSD、1ヵ月以下の時にはASDと診断される。
災害が起きた直後から、被災者は以下のような心理的経過をたどるといわれる。
1.茫然自失期(災害直後) 恐怖体験のため無感覚、感情の欠如、茫然自失の状態となる。自分や家族・近隣の人々の命や財産を守るために、危険をかえりみず行動的となる人もいる。
2.ハネムーン期 劇的な災害の体験を共有し、くぐり抜けてきたことで、被災者同士が強い連帯感で結ばれる。援助に希望を託しつつ、がれきや残骸を片づけ助け合う。被災地全体が暖かいムードに包まれる。
3.幻滅期 災害直後の混乱がおさまり始め、復旧に入る頃、被災者の忍耐が限界に達し、援助の遅れや行政の失策への不満が噴出する。人々はやり場のない怒りにかられ、けんかなどトラブルも起こりやすくなる。飲酒問題も出現する。被災者は自分の生活の再建と個人的な問題の解決に追われるため、地域の連帯感は失われる場合もある。
4.再建期 復旧が進み、生活のめどがたち始める頃、地域づくりに積極的に参加することで、生活の再建への自信が向上する。フラッシュバックは起こりえるが徐々に回復していく。ただし、復興から取り残されたり精神的支えを失った人には、ストレスの多い 生活が続く。
最期に、支援者のストレスの対処法を挙げておきたい。これは支援者に限らず、こうした大きな出来事を目の当たりにした私たち全員にとっても有効かも知れないと感じている。「共感疲労」は、自分が体験したことではないにもかかわらず、精神的に疲れてしまう現象を表している。実は私は東日本大震災の2か月後に、病気になって緊急入院している。振り返ると、特に支援に出向いたわけでもないのに、心理的に張り詰めた感じが続いて、倒れてしまったのだ。全然逞しくないそんな自分なので、こうしたことも念頭に置きつつ、自分自身をちゃんとケアしながら、今後も状況を見守りたい。そして、必要があれば支援に出向けるよう、こころと身体の準備をしておきたいと考えている。
【支援者にとってのストレス対処法】
1.ストレスの兆候が現れたら、恥じることなく、自分の気持ちやストレスに感じて いることを素直に認める
2.現場でどんな活動をしたか、事実関係を簡単に報告してから任務を解く
3.自分の行動をポジティブに評価する
4.自分の体験・目撃した災害状況や、それに対する自分の気持ちを仲間と話し合う
5.自分だけで何とかしようと気負わず、自分の限界を知り、仲間と協力し合い、お互いに声をかけながら活動する
6.時々仕事から離れて、体を伸ばしたり、深呼吸をする
7.家族や友人と過ごせる時間を大切にする
8.休めるときは十分に休むこと
大きな出来事から始まった2024年。皆さん、どのようにお過ごしでしょうか。4月には困難女性支援新法も施行され、大きな節目の年となりそうですね。またみんなで一緒にやってきましょう。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
※この記事は、学会、フェミニストカウンセラー協会、フェミニストカウンセリング・アドヴォケイタ―協会が持ち回りで投稿しています。