「共同親権」をめぐるドタバタの日々を振り返る


 2023年10月30日、「離婚後共同親権」から子どもを守る実行委員会の設立呼びかけの文書が、突然lineで届いた。「あまりにまずいのでこんな形になってきた」という言葉が添えられて。離婚後の共同親権を検討する法制審議会家族法部会で、「たたき台」の修正案が31日に提出され、法制審が要綱をまとめれば、来年の通常国会に民法改正案が提出される可能性がある、とのことであった。
 その時、私は「パープルシードあなん」という、DVのない地域づくりを目指す地域の市民グループの例会の最中で、さっそくそこにいる人たちにこの動きについて、情報を共有した。その後は、月一度の例会の度に状況を報告したり、議論することが続いた。
年明け以降は、「離婚後共同親権導入」の要綱案を止めるためのツイデモの呼びかけや、様々な情報が届き、気になるので自分でもスマホをググり、Xをのぞく日々が始まることとなる。「大変、大変!」と周囲に振りまきながら、当初は十分に解説することもできなかった要綱案を、走りながら理解していったような気がする。「え?どうして」「良いことなんじゃないの?」と無邪気に問われて、それに丁寧に答えることで、段々説明の仕方も上手くなっていった、そんな感じだ。
ウィメンズカウンセリング徳島の設立メンバーであり、その後県議会議員として活動している東条恭子さんと相談して、徳島県議会に働きかけると決めた。徳島県議会で「共同親権導入に反対する意見書」を出してもらいたい。請願は受け取るだけになるので、回答の必要がある陳情にすることとして、地域のDV被害者支援活動をする5団体連名の陳情文書を作った。先のパープルシードあなん、女性グループすいーぷ、女性と子どもの安全を守るエンゼルランプ、一般社団法人白鳥の森、そしてウィメンズカウンセリング徳島の5団体である。訴えの内容については、エンゼルランプ代表の上地弁護士が、意見書を作成してくれた。
当時の徳島県議会議長は、岡田理絵さんという自民党の女性県議であり、DV被害者支援にも理解のある岡田県議に東條さんが相談。岡田議員は「ただ出すだけでは仕方ないから」と、県議会の最大会派の長、嘉見議員と話をする機会を作ってくれた。さらに、徳島選出の国会議員の仁木博文さん(この方が後に非難の的になるのだが…)が法務委員であるため、仁木議員を通じて法務省に私たちが懸念していることを直接問い合わせてくれて、後に回答をもらっている。また、この時点で法務省はすでに国会議員に説明に回っており、3月8日の閣議決定で法案とされて、6月議会での議論となる情報を得た。
 嘉見議員との面会は、押せども引けども全く手応えのない、笑ってしまうような内容だった。「自分が支持者から相談されるのは、息子の嫁が子どもを連れて里に帰り、会わせてくれない訴えばかり。被害者は男性の方ではないか。自分は共同親権に賛成だ」という持論を繰り返すばかりで、強硬な推進派でなくても世の中の人はこんな風に感じているのか、これが多数派の感覚なのかと、ため息をついた。ただ、食い下がって話をしている私たちを見て、岡田議員の心が動いたのだと思う。もともと県議会の案件ではないし、これ以上は仕方ない。直接一緒に国会に行って、徳島選出の議員に、「地元でDV被害者支援をする人たちがこんなに心配している、慎重に審議して欲しい」と訴えようと、提案してくれた。党派を超えたシスターフッドは温かく、やはり女性でなくてはと改めて感じた出来事である。2月末、東條県議、岡田県議と一緒に上京して議員会館を回り、ひとまず私たちの声を、直接国会議員に届けることができた。
さらに、徳島県女性協議会という、徳島で長く活動する女性団体の大きな連合組織に働きかけて、廃案を求める要望書を法務省に提出した。また、女性協議会の主催で斎藤秀樹弁護士によるオンライン勉強会を開催してもらい、市町村の女性議員などを含む50名の参加者での意見交換会を行った。
 その後の、国会での離婚後共同親権導入をめぐる改正(悪)法成立までの過程は、皆さんも注目されていたことと思う。3月8日に閣議決定されて法案提出、4月16日衆議院通過、5月17日の参議院本会議で可決、成立している。反対の声が響く中での異様なスピード可決であり、国会での議論では、細かなことが何一つ詰められておらず、現場では大きな混乱が予測される法改正であることが明らかになった。普段はほとんど国会中継を見ない私だが、これからの業務のなかで直接かかわることが満載の内容だったため、アーカイブも含めて、この間は本当によく国会中継を見たなぁと思う。
 院内集会に併せて、地域でも何かアクションをしようという呼びかけに、急遽プラカードを作成して、徳島駅前でプラカードを掲げてのスタンディング、リレートークも行った。緊急の呼びかけにもかかわらず、これまで続けてきたフラワーデモの参加者を始めとする女性たち、20名が集まってくれた。
 法案の成立以降、6月の阿南市議会ではパープルシードのメンバーの男性市議が、離婚後共同親権の危険性を訴えて、阿南市の支援業務がいささかも後退することのないよう、質問と意見表明を行ってくれている。また、阿南市のDV被害者支援庁内連絡会では、「知っておきたい、離婚後共同親権導入と女性支援の今後」という演題で話をさせていただいた。それが昨日のことである。
 本稿は、この半年余りのなかで、とにかくドタバタと走りながらやってきたことを、そのままに振り返る機会とさせていただいた。改めて、よくやってきたな〜と、ちょっと泣きそうになってしまう。一生懸命動いてみて、結果は法律が可決されてしまって、ではがっくり来ているのかと自分に問うと、実はそうでもない。これまでは、私たちのように被害者支援にかかわる人以外が、DV被害者や子どもたちなど被害当事者の状況に十分関心を寄せてくれていたのかといえば、決してそうではない。この一連の動きのなかで、政治家も官僚も、行政の担当者、何より市民たちが、ずいぶん情報を共有して、DV被害について理解することが増えたのではないかと感じている。大変!大変!と最後までみんなで声を挙げたこと、反対を続けたことによって、確かに何かが動き出している。
 この法律の施行は2年後で、楽観できない状況であることには間違いない。ただ、この状況そのものを共有する人が増えているなかで、ここからはその運用の問題点についても、声を挙げて届けていくことができるだろう。もっと大きな視野で見てみると、ジェンダー平等や女性の人権問題について前に進めていこうとする側と、一方、それを押しとどめて家父長制家族を復活させたい人たちがガチンコでぶつかる状況が、可視化されたともいえる。ここからの社会がどちらに向かうのか、である。

 さてさて、本当に皆さんも、お疲れ様でした。そして、これからも私たちは、こうした状況に翻弄されながら、女性たちとともに歩んでいくのだなぁと、しみじみ感じています。この怒涛の日々は、消耗するだけのものでは決してなくて、実は結構パワーアップしたかも…という、喜ばしい個人的感想を最後にお届けして、長い報告を終えることとします。